まち劇インタビュー集

写真:安池中也(家具メーカー)

安池中也(家具メーカー)

 母親、号泣でした。「会社辞める」って言ったら。データ入力の仕事をしてたんですけど、29才の夏、父親の一言で、自分の人生考えて。考えたけど、得意なことは何もなかった。でも、「夢中になれることはある」って気づいたんです。それは、「子ども達の笑顔を創りたい」ってこと。で、すぐ会社を辞めました。

 実家が家具問屋だったのもあるかもですが、子どもが喜ぶ家具を創ろうって思ったんです。けど、高卒で何のスキルもないし、絵も下手、設計もできない。ゼロです。だから、とりあえずデザイナーを探しました。展示会に行って、おしゃれな服装の人に「デザイナーですか?」って片っ端から声かけるとこから始めて。次はデザインを形にしてくれる職人探し。片っ端から職人さんを回って、「こんなもん作れるか!」って何度も怒鳴られて。30人くらいの職人さんを3回周りました。1周目は門前払い。2周目は「なんでできないか」理由を教えてくれて、3周目は引き受ける人が出てきてくれた。熱意が伝わったんです。
 何とか起業したけど、雨漏りする倉庫で、濡れない所に事務机とPC置いてって感じで、1年9ヶ月は収入ゼロでした。で、大勝負のつもりで、貯金はたいて大規模な家具の展示会に出展したんです。そしたら反響が凄くて。「わ〜何コレ!」って遠くから走ってくる大人がたくさんいたんです。走ってくる時の表情がまさに子どもの笑顔、大人が子どもになったんです。僕たちの家具を見て。

 子どもは理想の姿なんです、僕にとって。日常の小さな出来事にもピュアに喜んで、毎日を楽しんでる。そんな生き方が憧れだし、学ぶことが多いんですよ。
 コロナ禍で材料費も高騰して、採算取るには価格を上げればいいんだろうけど、それは違うなって。何のためにやってるかってとこに戻れば、答えはわかります。高くなって家計を苦しめるようじゃ意味ないんですよね。

 僕がやりたいことは「子ども達の笑顔を創る」ってことで、手段には固執してなかった。家具屋である必要すら無かった。「理念」と「手段」があって、大事なのは「理念」です。いったん「手段」を手放すと、自分の道が見えてくると思うんですよね。
 今じゃ母親も「貴方なら上手くいくって思ってた!」って。笑。
2022年取材

一問一答安池中也

  • 今日の朝食

    納豆ご飯 妻のぬかづけ

  • 一緒に住んでいる人

    妻・両親・柴犬(あさひ)

  • 最近好きな作品

    ドラマ「パンとスープとネコ日和」

  • 静岡を色に喩えると

    濃い青