まち劇インタビュー集

写真:岡康史(演出家)

岡康史(演出家)

 特別支援学校在学中に先生の勧めで、演劇を始めたんです。自分は障害者だから、ちゃんとしたモノは一生創れないと思っていたけど、舞台なら、ちゃんとしたモノを創れるんじゃないかと思えたんです。ずっと負け続けていくと思えた人生に、舞台ならば逆転勝利のチャンスがあるのではないかと。

 でも、現実的には、高校卒業後は続けられず、10年の空白を経て、30才前に障害者と健常者が一緒に舞台を創る「しずおか演劇祭」に参加した時、やっぱ、自分でも何かできるかもって思えて、『午後の自転』って劇団を作ったんです。男女2名ずつ4人、障害者は私だけで。私が脚本を書いたから演出もやってみるかという感じで演出も始めて。演出は激しかったです。これまでの鬱屈したエネルギーの爆発もあったし。劇団の中で、言えることは言う、聞けることは聞くという形ができてきて、自分の居場所だと感じました。その時から私の「青春」が始まったんです(笑)。

 10 年くらい活動して、劇団に手詰まりを感じてた時、「ラウドヒル計画」の公演に演出助手で誘われました。正直、ずっと続ける気はなかったけど、『バードメン』という作品で、役者達の成長が目に見えたんです。それが嬉しくて。それで舞台への姿勢が変わった。自分を爆発させる力じゃなく、若い役者を成長させる力を持ちたいと思い始めたんです。

 今はラウドヒル計画の中で、『ノーボーダーズ』という障害者と健常者が半々のチームにも出演してますが、そういう場が常にあることが大事かと。健常者に比べ、障害者が吐き出せる場は明らかに少ないし、舞台空間ほど輝く場もない。ここにいていいんだと思える場です。私は演劇によって社会との接点を得て、東京で演出の仕事をしたり、舞台の仕事でロンドンにも行った。知り合ったロンドンの障害者は悲壮感がないんですよ。メールの最後は「エンジョイ!」ですから。障害の質が変わると不自由さは変わるし、世の中に不自由は山ほどある。でも、想像力を発揮できる場があればあるほど、人間と人間はフラットになると思いますね。
2021年取材

その後

 コロナでコンビニがセルフレジになったりしてるじゃないですか。感染対策としては非接触でわかりますけど、あれ、私みたいな肢体不自由の障がい者には非常に不便なんです。レジの人間にお金を渡す時は、ちょっと変な所にお金を出しても、人間だから対応してくれる。けど、セルフレジは精密作業なんです。あの限られた投入口に確実に入金するのは。キツいですね。社会のハード面は、障がい者に対して改善されてきてるけど、こういうこともまだあるんですよね。でも、今はできなくていいから、ゆっくりでいいから、常に良い方へ進んでいってほしいです。

 コロナ禍の2021年6月には、池袋の劇場が主催する障がい者の舞台公演の演出をやりました。イギリスの演出家と。カーテンコールで、出演者のろうあ者の方が「客席の照明をつけてくれ」って言うんです。なんでかな、と思ったら、両手を顔の前でクルクルと動かすことが「拍手をする」って意味なんですね。私も初めて知ったんですが。客席の皆さんがそれをやってる光景を見て、えらく胸にグッと来たんですよ。障がい者が舞台表現することって楽じゃないけど、つながれる方法はたくさんあるって。アートの中ではみんなが対等になれる可能性があることを改めて実感しました。綺麗事じゃなく。

 ウクライナ侵攻は他人事じゃないです。有事の際は「たぶん死ぬ」ってリアルに思ってますから。コロナもそうだけど、私みたいな障がい者は、何かが起きたら死ぬ確率が高いんです。平和で安全なのが一番。そうなると自ずとリベラルで非戦派になりますよ、そりゃ。勇ましいのは無理。

一問一答岡康史

  • 今日の朝食

    食べてない

  • 一緒に住んでいる人

    一人です。

  • 好きな本

    早川SF文庫「宇宙(そら)へ」SFファンとして、新しい可能性を感じた。

  • 好きな映画、ドラマ、舞台

    エヴァンゲリオン最終章が気になる。

  • 好きな音楽

    YMOとその系統、サカナクション、スーパーカーなど。

  • 静岡を色に喩えると

    紫とドドメ色

  • 静岡を漢字一文字で表すと

  • 静岡に初めて来た人をどこに連れていきますか

    グランシップの外側を見せたい

  • 静岡の全市民に見て欲しいもの

    カリオストロの城

  • 今、一番感謝を伝えたい人は

    両親

  • 今、一番大事にしている言葉は

    人生、面白い方に3,000点